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私は城の門番である。名前はない。
私は門番である。名前はない。
職務は、森深くそびえる騎士の城の門番として白き城門の前に立ち、城を襲う不届き者が現れないように警戒することだ。
門番は私の他にもう一人いる。彼にもまた名前はない。
それは私や彼だけの話ではなく、見晴台にいる見張りの彼も、城の内部に控えている騎士達も、皆同じだ。
この世界に、名を授かった者など存在しない。
あるのはただ、己が果たすべき役割のみだ。
この白き城がいつから建っているのか、城を襲う者とは一体何者なのか。
知っている者は誰もいない。そもそも疑問にも思わない。そのような複雑な思考は許されていない。
私はただ、決められた役割に沿い、城門の前に立っていればいい。
そうすれば、いずれ。
……いずれ、何だ?
大事な何かを思い出せそうな気がしたが、予感はすぐに霧消してしまった。
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