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少女は隣の席の少年のノートがひどく気になっていた。
もう書き込む場所がないのに、小さな文字でノートを取っていたからだ。
罫線の無い欄外。段落落としでできたスペース。少年がありとあらゆる空白部分を埋めんとして作り上げてゆくその芸術品に目眩がしそうになった。
「そろそろ次のページにしないの?」
少女は我慢できなくなり少年に声をかけた。
「キリが悪いから……。」
少年は手を止めることもなく、ノートの隙間につらつらと文字を詰め込む。
「でも、それだと後で見にくくない?」
世話焼きな少女は少年の事をどうにかしたいようだが、少年は厄介払いをするように言った。
「いいの!」
その言葉に少女はつまらなそうに、ふぅん、とため息のような声を出すと、黒板の方を向き直った。教壇に立つ先生は読み上げながら再び板書を始めていた。
まだ夏の暑さの残る教室。少年のシャープペンシルを握る手、端が折れたノートを抑える手はいささか汗ばんでいた。
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