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とうとう父親が、押し倒す形で、床に仰向けに寝かし付けた。
だが、女の子の方は全身をくねらせ、その戒めを解こうと激しく手足をバタつかせる。
がつん、と足元に鈍い衝撃が走った。
私の向う脛を、伸び切った女の子の足が蹴ったのだ。
驚いて顔を上げると、女の子が半身を起こし、父親の肩越しに、物凄い形相でこちらを睨んでいる。
がつん、がつん、がつん、がつん!
女の子は何度も何度も私の足を蹴り続ける。
私はようやく事態を呑み込んだ。
「あいつ」だ。
東京・A区の取材現場で姿を現したあの化け物が、今、再び目の前に居るのだ。
またしても白昼堂々、大勢の人間の真ん前で。しかもここは聖域、神社の拝殿の中である。「あいつ」はそんな場所にさえ、平然と侵入して来たのだ。
言い知れぬ戦慄が背中を駆け抜ける。
しかし、H美さんに取り憑いていた筈の「あいつ」が、どうして遠く離れた関西のこの地に居るのか?ここには、H美さんも居ないというのに。
言葉を失う私の前で、暴挙に気付いた父親が、小声で「すいません」と頭を下げる。
―刹那。
父親の戒めを強引に解いた女の子が、脱兎の様に駆け出した。
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