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私が腰を降ろした場所の前には、30代位の若い夫婦と、その娘さんらしい小学生位の年頃の女の子が座っていた。ピンクのカーディガンにポニーテール。左右に座る両親と楽しげに会話をしているが、声のトーンは抑え気味で、きちんと両足を揃えて着座しており、躾の良さが伺えた。
ところが。
不意にその会話が途切れた。
あれ?と思っていると、女の子が突然後ろを振り向いた。
目鼻立ちの整った、可愛らしい子なのだが、私の方に振り向いた時の目は、先程のように笑ってはいない。その視線には、憮然とした色合いを強く感じさせる。
横から母親が笑顔で話し掛けると、振り向いた顔はあどけない少女のそれに戻る。だが、その会話の合間にも、ちらちらとこちらに送る眼差しには、侮蔑と怒りの念が込められているようにしか思えない。
奇妙な不安が胸中を過る。
ポニーテールの女の子は2度此方を振り向き、2度私の顔を睨み付け、そして3度目に、今度は顔を歪めてにやりと笑った。
左右に座る両親は、その事にまったく気付いていない。
(なんだ、この子は…?)
呆気に取られていると、拝殿脇の扉がカタンと開き、狩衣に烏帽子で身を固めた神職が、厳かな面持ちで姿を現した。
「大変お待たせ致しました。それでは今から、諸祈願祈祷を開始致します」
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