拝殿内での怪異

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微かにざわついていた拝殿内が、水を打ったように静まった。 全員が床から起立して、神職に合わせ二礼二拍手一礼を行い、再び着座する。神職は祭壇に一礼すると、御幣で拝殿内にお清めを施す。全員が頭を垂れる。 祈祷開始の大禊祝詞が唱えられ、神職が柏手を打つ。場全体が厳かな空気に包まれる。 だが、私が冷静に祝詞の様子を聞き取っていられたのは、正直ここまでだった。 大禊祝詞が終わり、神職が、このH神社独特の祈祷文らしいものを唱え始めて間もなく、前に座っているあの女の子の様子がおかしくなり始めたのだ。 突然、前後にぐらぐらと揺れ始めたかと思うと、ひきつけを起こしたかのように、頭や肩をビクッ、ビクッと痙攣させる。そして座ったまま、半身をぐるぐると旋回させ始めた。 異変に気付いた母親が小さく声を掛ける。少女の奇行は止まらない。父親の方が慌てて身体を抱きしめ「静かにしなさい」と諌めたが、今度は手足をバタバタと動かしてもがき出す。細身とはいえ、倍以上の体格を持った父親が、小さな女の子を押さえ切れないのだ。 (これは、一体なにが…?) そんな様子を目前数十センチでやられていた私は、その異様さに息を呑むばかりだった。
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