拝殿内での怪異

7/11
前へ
/26ページ
次へ
とうとう父親が、押し倒す形で、床に仰向けに寝かし付けた。 だが、女の子の方は全身をくねらせ、その戒めを解こうと激しく手足をバタつかせる。 がつん、と足元に鈍い衝撃が走った。 私の向う脛を、伸び切った女の子の足が蹴ったのだ。 驚いて顔を上げると、女の子が半身を起こし、父親の肩越しに、物凄い形相でこちらを睨んでいる。 がつん、がつん、がつん、がつん! 女の子は何度も何度も私の足を蹴り続ける。 私はようやく事態を呑み込んだ。 「あいつ」だ。 東京・A区の取材現場で姿を現したあの化け物が、今、再び目の前に居るのだ。 またしても白昼堂々、大勢の人間の真ん前で。しかもここは聖域、神社の拝殿の中である。「あいつ」はそんな場所にさえ、平然と侵入して来たのだ。 言い知れぬ戦慄が背中を駆け抜ける。 しかし、H美さんに取り憑いていた筈の「あいつ」が、どうして遠く離れた関西のこの地に居るのか?ここには、H美さんも居ないというのに。 言葉を失う私の前で、暴挙に気付いた父親が、小声で「すいません」と頭を下げる。 ―刹那。 父親の戒めを強引に解いた女の子が、脱兎の様に駆け出した。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加