拝殿内での怪異

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関西でこそ初めてであったものの、昇殿祈祷はそれなりに馴れしているので、私は傍らの申込用紙に名前と住所を書き入れ、社務所受付に昇殿希望の用紙と費用を提出した。 祈願内容は勿論「厄除け」である。人によっては怪談が寄り付かなくなるからとお祓いや厄除けをまったくしないという怪談蒐集家の方もいらっしゃるらしいのだが、私は違っていて、むしろそういうものが集まり過ぎると大変な事になると思っている。 実際、妙な因縁話に関わって、足の骨を複雑骨折するヘマをしでかし、半年間、動きが取れなくなった経験がある。 こうした事が起こって、取材やフィールドワークが滞ってしまう方が、よっぽど怖い。だから、ある方向からすると「厄災の塊」である怪異談を漁るのだから、定期的なお浄めは必要だとも考えているのである。 さて、ひと通りの手続きも終え、待機所の椅子に腰掛け、しばらくぼんやりとしていたのだが、やがてまた妙な事に気が付いた。 なかなか祈祷開始の声が掛らないのである。 時計を見ると既に2時近い。地元民のMさんから「お昼時に行っても、向こうも昼食中だから、1時を少し回った頃に行くといい」というアドバイスを貰っていたので、神社に着いたのが1時15分位だったから、そこから既に45分も待たされているのだが、一向に祈祷が始まる気配がないのだ。 私が受付を済ませた頃は7、8人しか居なかった人数が、既に待機所一杯に膨らんでいて、椅子に座り切れず、大勢の人間が待たされている。
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