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ごみ袋にそのままポンッと投げ入れ、袋の口を縛ろうとしたときだった。どこからともなく現れた黒い手がバシッと私の右の手首を掴んだ。
「ひいっ!」
黒い手を振り払い、急いでベッドに逃げ込んで、布団に頭をつっこんだ。
『君のためなのに』
布団の中なのに耳元で聞き覚えのある声がした。一気に全身総毛だつ。
『なぜ捨てるの? なにがいけなかったの? ぼくはこんなにも君を愛しているのに』
右の耳から聞こえた声が左耳に移動する。鳥肌がとまらない。いやな汗が噴き出してくる。
「いやいやいやいや! もう許して!」
布団が恐ろしい勢いで引き剥がされる。急いで両耳を塞ぎ、首を振る。なにかおぞましいものが私の肩を掴んだそのときだった。
ガラッと勢いよく窓が開いて、冷たい風がひゅうっと私の側を駆けていく。
「シャー!」
ねこが威嚇するときの声が聞こえた。ハッと顔を上げると、ゆっくり振り返る。
私のすぐ背後に青年が立っていた。真っ白い長い髪が開いた窓から入ってくる風にさわりと揺れる。頭には白くて大きな三角耳がツンっと上向きに立っている。まるでさっき見たしろねこみたいだ。
「白夜?」
三角耳がピクンっと反応した。耳だけがこちらに向く。
「まちがえんな、愚民」
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