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彼が振り返る。顔は久能先生なのに、目の色がまったく違う。ブルーアイズ。その透き通る美しい目には大いに見覚えがあった。
「白夜様だ」
「ちょっと、ここ三階よ! どうやったらこんな高いところ……」
「助けにきてやったのにうるせえ女だな。俺様をそこらへんの人間どもと一緒にすんじゃねえ。これくらいの高さ、ちょちょいだ、ちょちょい」
鋭くとがった牙を見せ、彼はシニカルに笑ってみせた。
「そ……それより、あれはなに!」
彼の前に人の形をした黒いもやが立っていた。右に左に不安定に揺れている。
「おまえの彼氏の生霊だ。まったく、もうちょっと男を見る目を養えよ」
『ちとせ……ちとせ……』
もやが私の名前を連呼して、腕を伸ばしてくる。
「気安く呼んでんじゃねえよ、生霊風情が」
シュンっと素早く白夜の手がしなった。鋭い爪が黒いもやを切り裂くと『ギャア!』と絶叫が上がる。片手を失ったもやが開いた窓から外へ逃げていく。
「本体もろとも成敗してやる!」
もやを追った白夜はベランダの縁に四つん這いの姿勢で飛び乗った。そこから下を見て、躊躇なく飛ぶ。
「白夜!」
急いでベランダに飛び出して下を見る。彼は宙で美しい姿勢で二回転すると、音も立てずにしなやかに着地したのだったのだけど……
「ウギャアッ!」
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