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「あの……最近変わったことなかったですか? そうですね。ここ一週間、電車を待っていたら誰かに背中を押されて線路に落ちかけたとか……」
「え……!?」
思わず振り返り、じっと彼を見る。
どうして知っているのだろう? 三日前の出勤のときだ。電車を待ちながらスマホをいじっていたら、誰かに強く背中を押された。そのまま線路内に落ちそうになったのを、近くにいた人に助けられたのだ。
「あと、そうですね。信号待ちしていたら、やっぱり誰かに背中を押されて車にひかれそうになったとか」
「なんでそれを!?」
昨日のことだ。仕事が終わって駅に向かう途中、横断歩道で信号待ちをしていたら背中を押された。このときも周りにいた人がすぐに私を歩道に引っ張ってくれて命拾いしたのだ。
「もしかして、あなたが犯人!?」
きつく睨みつけると「とんでもない」と彼は両手を左右に大きく振って否定した。
それから、ややあと困ったように笑いながらスーツの内ポケットからアルミ製だろう、銀色の10cm四方のケースを取り出した。慣れた手つきで「こういう者です」と一枚の名刺を差し出す。
名刺には『しろねこ心療所 久能孝明』と黒文字で印刷されていた。
「しろねこ心療所? あなたドクターなの?」
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