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これが彼の口癖。君のためを思ってプレゼントしている。いつも君にはきれいでいてもらいたい。下着はどれだけ持っていても君の損にはならない。
たしかにそうだけど、彼の好きなものを押しつけられるのがどうにも耐えがたかった。一緒に選べたら、まだよかったのかもしれない。だけど、そんなことは一度としてなかった。私が選んだものを彼は必ず否定した。
「それは君には似合わない」だの「肌の色と不釣り合いだ」だの、散々言われた。気に入っていた下着だって勝手に捨てられた。
そのうち私は彼に反抗できなくなった。いや、正確に言うなら反抗するのが面倒になった、だ。なにか言い返せば「反抗的」とか「盾つく」とか言われる。恋人というより、お気に入りのオモチャみたいに思えてならなかった。彼の前ではただうなずいた。いやなことを言われようが、間違っていると思うことがあろうが、ニッコリ笑ってやり過ごした。それが一番波風を立たせずに彼との関係を維持できる方法だったから。
「これ、うちの新作なんだけど。千歳に絶対に似合うと思うんだ」
一週間前、レース素材の真っ赤な下着をうれしそうに手にしながら、彼は笑った。
「もういらない。下着を見るのもうんざり」
つき合って一年。限界だった。
「なんで? これ高いんだよ?」
「値段は関係ないの。もうお腹いっぱい。私、あなたと別れる」
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