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脇に置いたバッグを掴んで立ちあがろうとしたとき、パンッと大きな破裂音が響いた。しろねこが長いしっぽでテーブルを打ったのだ。彼は不機嫌そうな座った目で私を見上げていた。その眼差しがとがったナイフのように鋭くて息を飲む。まるで『座れ』と言われている気がして、仕方なく腰を下ろす。着席したタイミングを見計らって久能先生がコホンとひとつ咳払いする。
「ではあらためて、主人の言葉を伝えます」
「はい」
「白夜さんのほうを見ていてください。彼はとても気難しいんです」
久能先生がそう言った途端、またパンッと破裂音が響く。どうやら相当怒っているらしい。
言われた通りにする。しろねこは天井を見上げるように顔をあげる。しゃんとしたお澄まし顔に心の中で苦笑する。どこまでも気高いおねこさまらしい。
「浜崎千歳。おまえの悩みは解決してやる。ただし、条件がある。今回もですか?」
久能先生がしろねこを見る。しろねこは一切彼を見ないまま、またテーブルをひとつ大きくはたいた。
「わかりました。えっと……家にあるブラパンは全部捨てろ。今はいているイエローのスケスケも洗濯せずに即行捨てろ。って……こんなこと言わせないでくださいよ」
久能先生はポリポリとあごを人差し指で掻いた。心なしか頬が赤らんでいるように見えなくもない。
「ブラパンは買い替えろ……だそうです」
「それで呪いが解けるの?」
「とにかく言われたようにしてもらえれば、あとは彼がなんとかしてくれると思います」
「なにそれ? 微妙なんだけど?」
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