嘯《うそぶ》き

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嘯《うそぶ》き

 昔から夜中に口笛を吹くと,招かれざる客,すなわちこの世の者ではない,人知の及ばない「恐ろしきモノ」を呼び寄せると言われている。  ちょうど日にちをまたぐその瞬間に吹く口笛を(うそぶ)きと呼び,人々は深夜の静寂(しじま)を破るような口笛の()が聞こえると,誰かが意図的に「恐ろしきモノ」を呼び寄せているか,なにも知らない馬鹿者が度胸試しをしているのかと,何度も戸締りを確認し不安と恐怖で眠れぬ夜を過ごした。  昔からただの迷信と信じない者も多いが,深夜十二時,ちょうど日付が変わる瞬間に闇夜に響く口笛を吹いてみればよい。  深夜十二時をまたぐその瞬間,過去と未来の境目を,あの世とこの世の境目を,多くの「恐ろしきモノ」たちが行き来するのを見ることができるかもしれない。  その瞬間に彼らを導く口笛を吹き続けることができるなら,できるだけ高い音,できるだけ細い音,できるだけ大きな音,そして例え何かが見えたとしても決して止めずに吹き続けること,それができるなら彼らを呼び寄せてみるのも一興であろう。  その口笛に導かれて,過去と未来の狭間からヤツらがその姿を現わすだろう。過去と未来の狭間は,あの世とこの世の狭間でもあり,古来から『門』とも言われてきた。どんな「恐ろしきモノ」が導かれ姿を現わすかは,誰にもわからない。  しかし昔の人たちは,その危険さを知っていた。何故なら過去に天災として記録されている多くの災害が,嘯きに導かれ,あの世とこの世の境目であり,過去と未来の狭間から呼び寄せられた門をくぐり抜けてきた「恐ろしきモノ」たちによる(わざわ)いだった。
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