表札

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表札

 昔から、じいちゃんの家には何かいる気配がしていて、できれば行きたくなかったし、泊まるなんてもってのほかという気持ちだった。  ここに家には何かいる。誰に訴えてもお前の気のせいだと聞き流され、取り合ってもらえない。  絶対に気のせいなんかじゃない。本当にこの家には何かがいるんだ。それを証明するために、俺はじいちゃんの家に行った時は、必ず家探しをして不審な点がないか調べるようになった。  その結果、数年かけておかしな点をやっと見つけた。  表札の裏に書かれていた名前と思しき文字。日本語ではなさそうだけれど、それが文字だと理由もなく確信する。  間違いない。これが、じいちゃんの家で感じるおかしな気配の原因だ。  見つけてしまうと居ても立っていもいられず、俺はマジックを持って来て、上から文字を塗り潰した。  これでどうだ。お前の名前は表札から消えたから、もう、お前はこの家にいちゃいけないんだぞ。  誰に言う訳でもなく、心の中でそう勝ち誇る。  ちなみに表札の文字は、俺の予想通り何ものかの名前だったらしく、これ以来じいちゃんの家でおかしな気配を感じることはなくなった。  でも、それに浮かれていられたのは束の間だった。  この件から間を置かず、自宅で感じるようになったおかしな気配。じいちゃんの家で感じていたのとまったく同じ、あの異質な空気。
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