転落

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モチズリ建築は、郊外の田畑を開発してコンビニと高齢者向けのシェアハウスをセットで造る〝らくらくオーナー・システム〟という企画で業績を伸ばしていた。出来上がったシェアハウスの入居斡旋をしているのが子会社のモチズリ不動産だ。 オーナーは公的補助金と銀行融資を利用してシェアハウスを建て、自己資金ゼロで労せず利益が得られるという夢のような企画が〝らくらくオーナー・システム〟なのだ。モチズリ建築の宣伝文句が正しければ、その事業は〝買い物難民の高齢者を救い、オーナにも安楽な老後が訪れる〟はずだった。 ところが目論見通りの入居がなく、オーナーはあっというまに銀行融資の返済に窮することになった。ほとんどのオーナーは、運転資金までもゼロで事業に乗り出していたのだ。 融資が返済できなければ、オーナーは手に入れた不動産はもちろん、老後のために蓄えた財産や自宅までも銀行に差し押さえられてしまう。それで「入居者を入れろ!」「約束が違う!」「責任を取れ!」とモチズリ不動産に押しかけているのだ。
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