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キーボードからコマンドを打ち込み、盗聴システムを立ち上げる。流れてくる音声は監督が現場で指示を出すものが多かった。次に多いのは営業社員の売り込みと、空室の多いマンションオーナーに対する弁解だ。
社員同士の会話は、AIが事前に解析して重複しているものに目印がついている。それらは雑談がほとんどで、クリスマスや正月休暇をどう過ごすかとか、モチズリ建築に関する噂話が多かった。それらは、出だしだけ聞いて飛ばした。
『青井さんは、正月はどうするの?』
『私は、毎年一人旅をするんです』
『海外?』
『はい。今年は……』
昼休み中の会話だろう。人事課の工藤課長のスマホが録音していたのは、課員の青井由紀子との会話だった。社内では工藤と美智しか知らないことだが、由紀子は社長の愛人なのだ。
「そうだ……」
美智は受話器を取り、人事課へ内線電話を掛けた。
『はい、人事課、青井です』
受話器から流れてきたのは、恋人に語りかけるような優しい声だった。
「佐久間です。良かった、いてくれて」
『年末調整で、残業です。……先日はどうも。ずいぶん、酔っていたようですが、大丈夫でしたか?』
由紀子は忘年会の時の話をした。
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