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エレベーター内で大きく深呼吸をする。由紀子の話から想像すれば、向かう先は一筋縄では潜りこめないところだ。どうするか?……分からないけれど、飛び込む覚悟を決めた。
エレベーターを降りると正面に扉があった。予想通り、そこには受付があって難しい顔をした係員が立っていた。扉を出入りするのは、飲み物を運び込むミニスカートのサンタクロースとトイレに足を運ぶ紳士然とした中高年で、客は皆、腰のあたりにリボンをつけていた。
会場に入るにはサンタクロース姿のコンパニオンになるしかない。……美智は、会場から出てきた可愛らしいサンタクロースを捕まえた。
「衣装を貸してもらえませんか? 中に入って人を捜したいの」
「それは無理です」
両手を合わせて拝んだが、容姿に似合わずサンタクロースは冷たかった。
「お金なら払いますが……」
「お金の問題ではありません。私たちの信用の問題です。ここにいる方は、特別な立場にある方ばかりなものですから」
アルバイトだろうと高をくくっていた相手は、プロ意識の高いサンタクロースだった。真逆の皐月の顔を思い出しながら、仕事に戻るサンタクロースのすらりとした足を見つめていた。見た目だけなら皐月も負けてはいないのに、と残念に思った。
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