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それは強烈な身体の熱さだった。
生きよう、生きようと血を巡らせる、ママの心音を聴きながら、頭になるはずだった部位から順を追って、僕が蕩けていく。
ママは僕がいるお腹を撫でながら、よくママの好きなチョコレートってお菓子の話をしてくれたから。
「きっと僕はチョコレートになったんだ。」
硬いピンセットで外の世界に、コロコロと掻き出されて。
お医者さんが可哀想なものみたいに、散り散りになった僕を見るものだから。
まだ使ったことのない脳みそで、僕は困っているのだ。
初めて死ぬから緊張する。
それはパパとママも同じかな。
チョコレートおばけになった僕は、宙を舞って。
血を拭いたタオルや、光るメスの先が生々しいなあって、天井で膝を抱えていたが。
やがて退屈になって、張り詰めた空気の一室の窓から、ぴょーんと飛び降りる。
うん、着地成功。
そばの花壇に咲いている花が綺麗だ。
「らんらん…ら…、あれ?」
パパとママが、 よくお腹の中の僕に、聞かせてくれた歌を歌いたい気分だけど、さっき頭が蕩けたせいか、どうにも歌詞を思い出せなくて。
ちょっとだけ、しょげる。
病院の敷地内を、弱々しく肩をすぼめて行き交う人々の息は白く、時々ぶるっと震えていた。
松葉杖に頼って歩く若いお姉さんに、ゲホゲホと咳き込むおじいさん。
此処に来る人たちは皆、不健康なんだなあと、不健康を究極に極めて死んでいる僕は、ぼんやりと思う。
「お外、もっと見てみたいな。」
ふと、病院の正門のところに、僕を待っていたみたいに大きな紙飛行機がふわついていた。
画用紙をいっぱい繋げて作ったのだろうか。
おそるおそる近づくと、紙飛行機は僕の足元まで下がってくれた。
何かを期待するように、頬が緩むのを感じて。
僕は紙飛行機に飛び乗った。
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