チョコレートおばけ

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もしも、僕が生きていたなら、同じように僕もパパとママを、誰かを思って泣いただろうか。 初めて、『生きていたなら』なんて考えた。 僕は身体が蕩けて死んだことで、ママの好きなチョコレートになったかと思っていたけど。 我に返って、冷静に現実を見れば、それはただ痛みを与えて立ち去っていく、ぐちゃぐちゃの命になりきれなかった命でしかないようだ。 死ぬってそういうことだったのだ。 「パパ、ママ…。」 もう魂が溶け切って煙になっちゃう。 誰にも見えない、僕と同じように名前も無い紙飛行機と一緒に、僕は消えていくのだ。 聴こえないのは分かっているけど、それでもこういう時、二人に何か言わなきゃいけないのかな。 だけど、この期に及んで『ありがとう』も『さよなら』も安っぽい言葉に思えた。 使ったことも無いくせに。 ママの鞄から、チョコレートを一欠片だけ摘んで。 悪い人になりたかったわけじゃない、車の人のごめんなさいの一欠片を受け取って。 最後の力を振り絞り、季節外れのあたたかい風で、パパとママを背中から抱きしめた。 驚いたように、僕を探すように、二人はこちらを振り返ってくれた。 それだけで僕は、空洞の胸がきゅうっと切なくなるほどに満たされていって。 「またね!」 笑顔を優しいイオンのように、その場に煌めかせて、僕は手を振って消えた。
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