最終章

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 生気が失せた澄子の蝋人形のような唇から、無感情な言葉がこぼれた。 「昨日買い物に行けなかったから。チョコレートケーキなら冷蔵庫にあるわ」  裕二の服を着て、テーブルで待つ田中の前に冷蔵庫の奥からチョコレートケーキが差し出された。  朝からケーキか、しかし仕方ない。澄子の秘密は握っている。賢い女だ、逃げやしないだろう、後で買い物に行かせて食材を買い込ませよう。    トレーに載せられたケーキには、ふんだんにチョコレートがかけられている。  そういえば、これは裕二の為に作ったバレンタインの手作りか、こんなに可愛いらしい顔をした清楚で可憐なお嬢様を演じていても、裏では男を咥え込み食い殺す。まるでカマキリか蜘蛛の雌のようだ。女って生き物はつくずく怖いものだな。  しかし、何もかも裕二のおかげで助かった。二人の喧嘩の原因もきっと裕二が用意してくれる筈だった俺の逃走資金のことだろう。殺されはしたが、こんないい女まで残してくれるとは。裕二様々だぜ。しかし、まてよ。薬学部か……。
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