最終章

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「後悔してるか?」 「なんで? 時間は巻き戻せないよ? あたしも、貴方もね」    澄子の視線に田中が違和感を感じはじめたとき、胃の中から何かが込み上げてくるのを感じたが、既に手遅れだった。    田中の胃の中ではチョコレートケーキ中に含まれたシアン化物がコーヒーに含まれた酵素と結びつき、シアン化水素へと変化していた。所謂(いわゆる)、青酸ガスである。 「おっ、お前!」 「やっと効いてきたねぇ。ねぇ、驚いたでしょ? 警戒してあたしにも食べさせたのは流石だった、LD50(注)の3倍のシアン化物だから不味かったでしょ。帝銀事件で使われた薬物ってわかるかな? 加水分解だから少し時間がかかるのよ。上手く反応が起こるか、あたしも内心どきどきしてたんだから。あたしはどうして平気かって? 心配しないで、あたしは血中でゆっくり分解するから」 (注)半数致死量
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