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田中は悶え苦しみながらも、最後の力を振り絞り澄子にすがりつくが、微笑みながら玄関へと逃げる澄子に引き倒され、フローリングに倒れこむと痙攣し始めた。
「ふふふっ、自業自得よ! あんたさえ居なければ裕二も死ななくて済んだかも知れないのに! あんたなんかの玩具にされるなんて真っ平御免よ! って、聴こえてるぅ? くっくっ」
やがて、動きを止めた田中の死を足先で確かめて、顎を上げほくそ笑んだ澄子の背後で、突然鳴り響いた玄関チャイムが来訪者を告げた。
「ひっ!」
虚を衝かれ立ち竦む澄子の耳に、インターフォンから滑舌のよい若い男の声が響く。
「警察です! 新井澄子さんご在宅ですよね? 裁判所から田中邦夫の逮捕状が発行されました。早くドアを開けて下さい!」
「ほ、本物?」
ドアスコープを覗くと制服警官と背広を着た二人の男、そしてマンション管理人の姿もあった。澄子は室内へ振りかえり、目を剥き口から泡を噴いて横たわる哀れな田中を見下ろした。
「はい! 今、開けます」
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