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2月14日。
学校中が甘くてそわそわする日だ。
その日の放課後、校舎裏に来て欲しいと仲のいい幼馴染から呼び出された。
一体何の用事なんだろう、なんて察しがつかないわけもない。
呼び出された校舎裏へと行くと彼女がいた。
緊張した面持ちで可愛らしくラッピングされた小さな箱を持っている。
僕の姿を見つけると照れたような、それでいて泣きそうな顔になる。
「と、突然、ごめんね。びっくりしたよね」
上ずった声だった。それからしばらく黙っていたが意を決したように再び口を開く。
「あのね、こんなこと言われても困ると思うんだ。だって、私たち、ずっと仲のいい幼馴染だったから……でも、えっと、分かるよね。今日が何の日かって……」
ふぅ、と彼女は一息ついて箱をぎゅっと握りしめた。
「待って」
小さく制止の声をあげたのは僕だ。
きょとんとした表情で彼女が僕を見る。
「その先は僕に言わせて。今日も君はいつも通りで……もしかしたら他の男に、なんて思ってさ。不安だったんだ。声をかけられないかもって。でも、ここに呼ばれて僕から言おうって決めてたんだ」
ふぅ、と僕は一息ついて彼女をまっすぐと見つめた。
「待って」
小さく制止の声をあげたのは彼女だ。
「私がこの日を選んでこの時間を選んでこの場所を選んで呼んだんだよ。勇気を振り絞って私に言わせてよ」
「いや、僕も機会を伺ってただけだし。そしたらいいタイミングだなー、僕から言いたいなーって」
「いやいや、この箱見えないの?用意したの私なんだから私からでしょ」
「いやいやいや、普通に考えたらこういうのは男からでしょ。何言ってんの」
「あー、あー、言おうと思ってたんだけどあんたのそういう普通に考えてとか常識的に考えてとかうざいよね」
「は?じゃあ君が朝に迎えに来るときに歯磨き粉つけてるのはなんなの?馬鹿のアピールなの?」
「はぁ!?今それ関係なくない?ネクタイもろくに結べないで頼ってくるくせに!」
ああ、きっと彼女とは永遠にこういう関係が続くのだろう。
言い返しながらそんなことを思っていた。
告白のチョコかと思ったら喧嘩のチョコになってしまったと。
一緒に笑い話にしてしまうに違いない。
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