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もっとも、このいじめが原因で、優里も大学は姉の後を追って、東京の六大学のひとつに進学したのだった。しかし、それもまだ、しかし、この物語では後の話だ。
「ねえ、お母さん、なぜ、みんな、あたしのことを由紀姉ちゃんの子供だ、なんていうのよ~」
「どうしてだろうねえ」槙かあさんは、優里の質問にただただ困ってそういうしかなかった。
槙かあさんは、かなり年老けて見える。優里からすれば、母さんというには年嵩、おばあさんというには若すぎるというところで。
決して醜いというわけでもないが、姉と優里は似ているが、母の槙とはあまり似ていない。そんなところも、こんなむちゃくちゃなうわさの元なのかもしれないと、幼い優里には思われるのだが。槙と猪之吉、子供が授かるには少々年が行っているということで、”仲のよいことで”とすまさているようだ。
しかし、それ以上、何が悪いのか、まだ、今の優里には、理解できない。
どうすれば、赤ちゃんが授かるのか、わかる年齢ではないのだから無理は無い。
しかし、そのいじめのせいで、優里が友達とは距離を置くようになってしまったのは間違いない。
自然と一人で、山野を歩いて遊ぶようになっていた。
といっても、昔のように、幼児の優里を実際の伐採現場に連れて行くことも無く、伊賀市周辺の里山がもっぱらだった。
もっとも、こんな雪深くなった時点で、そんなところを歩くというのも、沙汰の限りというものだろうに。よほど、腹に据えかねることが、学校であったのだろうか。それとも、単なる気まぐれなのかは、判断の分かれるところだろう。この年代の少女の考えなど、うかがい知るのは困難というもので。
ばささ・・
森の中を歩く少女の背後で、物音がした。
「誰?」
優里は、即座にそれに反応した。間違いなく、音のしたほうに顔を向ける。
「すまねえ、驚かしちまったな、お嬢ちゃん」
「おじさん、だれ?」
「誰といわれても困るが、怪しいものじゃない」
「なんか、十分に怪しい。なんだか、この間テレビに出ていた、内藤チンに似てる」
やせた男だが、こんな雪山にはふさわしくない軽装だ。さすがに裸に海パンというわけではないが、それでも、今のこの場所にはふさわしくない。さらりとした、白い背広姿。
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