ゆきん子

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「内藤チンじゃない・・良く間違えられるがな。おじさんは、うむ、まあ、おじさんだな、おじさんは・・犬神・・といっても、わからんよな、お嬢ちゃんには」 「いぬがみ、サマ?」 「あ・・知っているのかい、お嬢ちゃん」 「知ってるけど、お父さんに聞いて・・」 「そうかあ、じつは、おじさんは、そのイヌガミさまに会いたいと思って、ここに来たんだよ」 「ふうん・・でも、犬神さまには、もっともっと山奥に入らないと、あえないんだって。行者様たちが修行するほどの山奥にいて、でも、その行者様でも、会えるのかどうかわからないほどの山奥の山奥なんだってきいたわ」 「へえ、物知りなんだな、お嬢ちゃんは」なんだか、内藤チンに良く似たおじさんは、言った。  服装は、この当たりでは見ないほどのシャレた格好なのだが、無精ひげの具合から、なんだか、この間の刑事ドラマかで見た、裏の賭場で大負けしてヤクザに追われ、逃げ回っている男に良く似ていた。 「チンのおじさんは、ヤクザに追われてるの?」 「なんで、そう思うんだ?」 「なんとなく」 「違うが・・似たようなものかな」  チンのおじさんの笑顔は、どこか、狼のようだった。口の端から妙に大きな犬歯が覗いたからだろう。確かに、アメリカのドタバタアニメに出てくるヨレた悪漢狼にそっくりだった。 「で、その犬神さまに合いに来たのだが、道に迷ったらしい。雪深いからねえ、このあたりは。どこなんだ、ここは?といっても、お嬢チャンが歩くようなら、町が近いのかな」 「うん、伊賀市ってわかる」 「ああ・・え~伊賀かよ。結局、大回りして、振り出しに戻ってきただけ、かよ、まったく、まいったな」 「もしかして、そのまま、山奥に入っていくつもりなの、チンのおじさん」 「なんだ、そのチンのおじさんというのは・・なんか、犬っころみたいで」 「気に入らない?」 「うむ」 「ま、いいじゃない、チンのおじさん」 「で、お嬢ちゃんの名は」 「しらないおじさんに、名前は教えないほうがいいって、お父さんが」 「うむ、まあ、確かに教育としては正しいようだが、こっちだけチンのおじさんというのもなあ」 「じゃあ、ゆきん子でいいわよ。あたしも、このあだな、好きじゃないから」
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