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「そうなんだ。まあ、それは、大変だな」
「もし、そのまま、この山奥に入ろうって言うのなら、チンのおじさん、死ぬよ、雪に埋もれて。この時期、山の中に入るのは、よほど修行した行者さんか、マタギの猟師だけだからね」
「まあ、だから、ここに来たのだが」
「やっぱり、ヤクザに借金して逃げてきたんだ」
「違~う」
「じゃあ、なによ、チンのおじさん」
「たって、ゆきん子にわざわざ教える必要も無いだろう」
「そうだけど。チンのおじさん、うちに来る?ウチは、行者さんのお世話もしているから」
「民宿の子か?」
「・・・まあ、そんなもんだけど」
「ううむ、お世話になりたいところだが、ちょっと、俺がやっかいになると、面倒に巻き込まれるかもしれない」
「あ、やっぱチンおじさん、ヤクザに借金してるんだ」
「違~うって、まあ、面倒だな、そんなもんだよ。で、困っているんだ」
「少なくとも、この雪の中をそんな靴で歩こうなんて、雪山、ド素人ね、チンおじさん」
「ども、なんか、すんません。しかし、どうしても、俺は、犬神さまに合わねばならんのだよね」
「なら、カンジキ、もってきてあげる」
「いいのか?」
「ええ、まあ、新品はダメだけど、ウチには、いくらでもあるから」
「それは、助かる」
「ゆきん子は、万博、行くのか?」
不意に、チンおじさんは、どうでもいいことを聞いた。何か聞かないと、間が持たないのか、こんな軽装では、やはり寒いからなのかは、定かではない。
「ああ、今度、大阪であるやつね、なんか、テレビでやってるけど。どうかなあ。父さんたちがつれてってくれればいいのだけど。父さんたちが切った木が、あそこの建物のどこかに使われているってことなんだけど」
「へえ、すりゃあ剛毅だ」
そういうと、チンおっちゃんは胸ポケットを探って、タバコを引っ張り出す。マッチの火をつけようとするが、しけっているらしい。
「ちいい、だめか」
どん、腹立ち紛れに横の木の幹をたたく。
どさささ・・
上から雪が一気にチンおっちゃあの頭の上に落ちてきた。
「ち、今日は新月かよ」
「タバコ、お父さんも吸っているから、それ、もらって来ようか」
「いいよ、気にするな、ゆきん子、子供に同情されるようじゃ、おれも、ますます、落ちぶれた気になる」.
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