ゆきん子

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「ま、こんなときに、お山に入るような酔狂な人間は修行者にもいないだろうから大丈夫だろうけどって。チンおっちゃんも、気をつけたほうがいいよ、お山で、何が起こるかわからないから」 「いいさ、そんな話・・なんだか、この展開って、川口某のTV探検隊の常套話じゃないか、”お山にはのろいがあるぞ、はいっちゃならねえ、とか”」 「でも、探検隊は、入っちゃう」 「そ、そんな感じ」 「あたしは、別に止めていないけど。それだったら、こんなモノもってこないもの」 「確かに。かしこいな、ゆきん子は。じゃあ、これは、ありがたく、もらっていくよ」 「行者さんに書いてもらったお山の地図もあるからね、あたしが、書き写した。ウチの職人さんたちのために書いてくれたんだけどね。だから、チンおっちゃんは、くれぐれも、魔界におっこっちゃだめだよ」 「このお山に、魔界なんかあるのか?」 「なんか、落とし穴みたいなのが、いくつもあるみたい。アホウな悪者をお山に入れないようにするための。ほかにも、行者さんしか知らない秘密の話で。犬神さんに会えそうな場所も。まあ、でもそれは、昔行者さんがあった場所ってことなんだけど」 「それは、ありがたい、じゃな、ゆきん子、おまえのこと、お前に受けた恩は、絶対忘れない」 「それは、まあ、いいよ。あたしのことなんか、忘れても。あたしも、たぶん、忘れちゃうから」 「そう、そうだよな・・じゃ、いくわ、俺。ゆきん子も、その町に現れた変な連中には気を付けろよ」 「いいよ、そんなの見かけたら、すぐに逃げるから」 「そうだな、それが・・いい、じゃあな。元気でいろよ、ゆきん子」  そういうと、チンおっちゃんは、雪山の中に消えていった。  ”神隠し”にあったときのことを、実は、杉村由紀はほとんど覚えていない。  夢の中のようだったというしかないのだ。
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