ゆきん子

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 ”神隠し”にあったのは、高校生の夏だったはずなのに、そこは”真冬”だった。  その夢の中では、自分は、なぜか、祖母の名”たか”を名乗っていた。  体は自分なのに、まるで、自分の中に亡き祖母が乗り移ってでもいるようだ。言葉遣いも、どこか昔風になっているし。  しかし、その夢の中で、自分は、愛すべき男に出会い、交わった。  その夢は、リアルだが、所詮は夢だと思っていた。”神隠し”から3ヶ月もして、悪阻が始まるまでは・・・  夢の中で、それはよくある”オチ”というべきだろうが、自分は、雪山の断崖から身を投げるところで目が覚めたのだった。  泣きながら、目が覚めたのだ。そんなものを見れば、やはり夢に違いないと思うのは、おかしくは無いだろう。  それをいえば、娘を産んだこともまた、彼女にとっては、夢のような話だった。出産までの数ヶ月間を、これもまた”神隠し”の中ですごしたからだ。  級友は、彼女の妊娠を”ふしだら”と非難もしたが、そのあと、一日の”行方不明”のあと、何食わぬ顔で学校に戻ってきた彼女、当然ながら、その間に大阪か京都などの都会で中絶手術したともうわさしたが、それは、当時の彼ら高校生の医療常識からはちょっと考えられないことだった。  そして、同時に赤子の優里が杉村家に現れた。  妊娠も、出産も”夢の中”だった。  そのために、由紀にはそれが現実とは思えなかった。そして、いつしか娘の存在さえ、忘れてしまった。  それは”実の母”にはありえない反応だというしかない。娘に対する無条件の本能的愛情。それが、もともと、由紀の中にはまったく生まれていなかったのである。  なんということだろうか、まったく、なんということだろうか。  しかし、それが、彼女たちの、事実だったのである。
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