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天地がひっくり返ったって正一とは寝ないだろうし、そういう雰囲気にもならないんだろうなと思うと、昔の恋人の息子とはいえ、気が楽である。
ふと、正一が借りたいと言ってきた本のタイトルを見て、ギョッとする。
『なぜ男は不倫をする?』
『夫に不倫された妻のゆくえ、家族のゆくえ』
『不倫は罪なのか』
『楽しい不倫、苦しい不倫』
『不倫学』
社会学系の書架スペースにある書籍ばかりだ。大学とは『不倫』さえ学問にできるらしいことを知ったのは、図書館の職員として働き出してからである。
それにしてもなぜーー。
手を止め、おそるおそる見上げると、じっとこちらに視線を送ってくる正一と目が合う。
「浮島さんに、ずっと訊きたかったんだ」
真剣な目が、浮島を捉える。もの言いたさげな目は、あの人に似ているかもしれない……と一瞬思ってしまう。ゴクリと唾を飲むと、思いのほか音が顕著に自分の耳へと届いた。
カウンターに両手を乗せた正一が、真摯な声で訊いてくる。
「浮島さん、オレの父さんと不倫してただろ。父さんが死ぬ直前まで」
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