たいした恋じゃない

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***  デジタル化が効率的だなんて、嘘っぱちだ。  浮島奏芽(うきしまかなめ)はパソコン画面と先日購入した新規書籍の伝票を交互に確かめながら、両手の人差し指でキーボードをポチ……ポチ……と打っていた。  スローペースではあるが仕方がない。時短を優先させてミスした後の方が面倒だ。  初見のデータを瞬時に頭に入れ、指に落としこむという作業自体、はじめから無い仕事への気力をさらに削ぐというものである。いつ終わんだよコレ……とげんなりする。いつものように背伸びをしようとした瞬間、浮島の腰に激痛が走った。 「――ってぇえ……」  半ベソをかきながら、今すぐにでもキーボードを滅茶苦茶に連打し、パソコン画面を投げつけたくなる衝動に駆られる。だが、今日の浮島にそんな体力は残っていなかった。  今日一日、座り仕事しかできなくなった理由を思い出すと、すべて自分の責任とはいえ、今でも反吐が出そうである。  昨夜、ゲイ専用のネット掲示板で知り合った男を家に招いたのが失敗だった。  セフレにちょうどいいかな、と久しぶりに思ったその男は、高柳といった。  浮島はいつも、ネットで知り合った相手とはじめて顔を合わせる約束をした時、メールだけのやりとりの時点で、『だいたいこんな感じの相手だろう』と大概予想する。  実際に会った時、もちろんその予想が当たっている部分もあれば、外れている部分もある。メールでわかることなんてその程度のものだと思っているからだ。予想と違っていても、驚きはない。  だが、この男はそんな浮島の予想を見事に的中させてきたのだ。自信たっぷりに挑んで的中させた、昨年の有馬記念なんか比じゃないくらいの的中率である。  実際にはじめて顔を合わせた時の印象に、セックスまでの運び方、そして「ずいぶんと気持ちよさそうだったね」という事後の会話まで、すべてが浮島の想像通りだった。  スーツのよく似合うハーフ顔(たぶん整形)はいくらか予想外だったけれど、外資系企業に勤めていそうだなと思って訊いたら、そんなことまでもが的中してしまった。  これにはさすがに、悪い意味で驚いた。  相手には申し訳ないが、浮島的には想像できてしまう相手ほどおもしろくないものはない。
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