たいした恋じゃない

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 それは今朝、ミーティング形式で聞かされた話が原因だ。  館長が言うに、どうやらここ最近、図書館への不正入館が多発しているらしいのだ。  大学の図書館は、学生なら学生証を、職員なら職員証を、それ以外の外部者なら入館許可証を、入館ゲートの読み取り機械にタッチしなければ入れない。  しかし何者かが、入館しようとする学生や職員の背後にへばりつき、どさくさに紛れて図書館に不正入館しているという。  目撃情報が相次ぎ、いよいよ図書館全体で対策を取ることになったのだ。  浮島と丸美も、館長やお局から「入館ゲートで怪しい動きをしている人がいたら、速やかに報告してください」と忠告された。仕事をそつなくこなす丸美はともかく、面倒な仕事に新たな仕事が追加され、浮島にとっては荷が重い。  防犯カメラでもつければいいと思うが、図書館の景観に合わないとかで、設計した建築家が嫌がるのだそうだ。 「怪しい動きっつってもなあ。痴漢してるやつの動きならわかるんだけど」  浮島のこの一言で、昼食時の話題が『痴漢』になったのである。 「あーあ。浮島さんだと痴漢の話しても斜め上から返ってくるから、ほんとラク」 「他はラクじゃねえのかよ」 「面倒くさいんですよ~。自慢に受けとられることもあるし」 「どこが自慢になるんだ?」  被害を受けた者が自慢できることなんて、何もないと思う。慰謝料の金額くらいか?  丸美は「あーやだやだ女なんて」と言って、辛そうな担々麺の汁を飲んだ。  食後にミントの強いガムを噛みながら、浮島は疑問に思う。 「でもさ、その不正入館してるやつ、持ってないなら申請すればいいだけなのにな。入館許可証。申請してくれればほとんどの場合渡せるだろ、あれって」  スイーツを食べている丸美が「そういえば……」と何かを思いだしたのか、ちょっと上を向いた。
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