606人が本棚に入れています
本棚に追加
手元を覗いてきた丸美が、ポツリと言う。
「あちゃー……目覚めかけたじゃなくて、もう目覚めちゃったんですね、この子」
「なんで三崎が浮島さんに連絡先なんか渡してるの?」
さっきね、と丸美が事情を説明する。事情を把握した正一が盛大にため息をついた。
「最悪……」
「助けてもらった分際で言うのも気が引けますけど、学生に手を出すとか笑えませんよ」
「まだ出してねえよ。出すつもりもねえし。基本的に年下無理だし」
浮島は三崎からもらった紙にライターで火をつけると、パッと手を離した。紙はパチパチと燃え、揺れながら地面に落ちていく。
炭になった紙を見下ろして、丸美が言う。
「ま、鉄則ですね。気がないなら連絡しないっていうのは」
「だろ? でも小野さんも詰めが甘いよ。あんなの受け答えしてたらダメだって」
「ふつうの男の人は、『あーこれ迷惑がってるな』って感じる態度してたんですけどね、私」
「通じないやつもいるって、知ってんだろ」
「だってあの子達の親が払ってくれる授業料が、私達のお給料になってるわけじゃないですか。一応」
「あーいう学生はそんなこと、なんにも考えてねえよ」
ふと、正一がずっと黙っていることに気がついた。
正一は、炭になった紙切れを拾おうとしていた。正一の指先が炭に触れる。紙だったそれは風に吹かれて地面を這い、跡形も無くなった。
「なにしてんだおまえ」
「三崎は……浮島さんのことを、好きになったんじゃないの」
「はあ? んなわけねーだろ。おれがセフレ募集してるっつったから、物珍しくて興味湧いただけだ」
「セフレ募集してるの……?」
「んあ? あたりまえじゃねーか。いつだって募集してるわ。こないだ目つけてたヤツはクソだったしよ」
「……」
含みのある正一の沈黙にイラッとして、思わず「じゃあおまえがなるか? おれのセフレに」と男の前に立って訊く。
最初のコメントを投稿しよう!