たいした恋じゃない

31/227
前へ
/227ページ
次へ
 手元を覗いてきた丸美が、ポツリと言う。 「あちゃー……目覚めかけたじゃなくて、もう目覚めちゃったんですね、この子」 「なんで三崎が浮島さんに連絡先なんか渡してるの?」  さっきね、と丸美が事情を説明する。事情を把握した正一が盛大にため息をついた。 「最悪……」 「助けてもらった分際で言うのも気が引けますけど、学生に手を出すとか笑えませんよ」 「まだ出してねえよ。出すつもりもねえし。基本的に年下無理だし」  浮島は三崎からもらった紙にライターで火をつけると、パッと手を離した。紙はパチパチと燃え、揺れながら地面に落ちていく。  炭になった紙を見下ろして、丸美が言う。 「ま、鉄則ですね。気がないなら連絡しないっていうのは」 「だろ? でも小野さんも詰めが甘いよ。あんなの受け答えしてたらダメだって」 「ふつうの男の人は、『あーこれ迷惑がってるな』って感じる態度してたんですけどね、私」 「通じないやつもいるって、知ってんだろ」 「だってあの子達の親が払ってくれる授業料が、私達のお給料になってるわけじゃないですか。一応」 「あーいう学生はそんなこと、なんにも考えてねえよ」  ふと、正一がずっと黙っていることに気がついた。  正一は、炭になった紙切れを拾おうとしていた。正一の指先が炭に触れる。紙だったそれは風に吹かれて地面を這い、跡形も無くなった。 「なにしてんだおまえ」 「三崎は……浮島さんのことを、好きになったんじゃないの」 「はあ? んなわけねーだろ。おれがセフレ募集してるっつったから、物珍しくて興味湧いただけだ」 「セフレ募集してるの……?」 「んあ? あたりまえじゃねーか。いつだって募集してるわ。こないだ目つけてたヤツはクソだったしよ」 「……」  含みのある正一の沈黙にイラッとして、思わず「じゃあおまえがなるか? おれのセフレに」と男の前に立って訊く。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

606人が本棚に入れています
本棚に追加