たいした恋じゃない

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 本人から言葉をもらったわけではないけれど、献身的な態度や、浮島の肌に男と寝た痕跡を発見した時の複雑そうな表情、百数十円の飲み物をあげた時の照れている仕草など……それらを見るかぎり、 確信せざるを得ない。『いつから』とは、浮島もハッキリとはわからない。  だが、これまでいろんな男の好意を受けてきた浮島にとって、正一の好意ほど純粋でわかりやすいものはなかった。  ああ、困ったな。このままでは真野先生に顔向けできなくなるじゃないか。  そうは思っても、浮島には大丈夫だという確信もあった。どんなことがあっても、真野先生の息子に手を出すつもりはない。  そんなことを一回でもしたら、真野先生の面影のある正一のことを、まるで真野先生の代わりにしたみたいだから。  正一は、頭はそんなに良くないけれど、勘の鋭いやつだ。浮島に同情で寝てもらっても自分が虚しいだけだと、きっとわかっている。 亡くなった恋人の息子と寝てしまったら、浮島が傷つくということも、知っているのだ。  だから、たとえ二人で裸でいても、浮島は百パーセントそういう雰囲気にはさせないし、向こうもなろうとしない。  職場である図書館に向かいつつ、真野先生とかつて歩いた門までの桜並木を振り返る。  今夜、正一が遊びに来るのだ。昨日の食べ残しのカップラーメンを、シンクに置いたまま捨てていなかった。いい加減掃除しないと、また怒られてしまう。年下に叱られるのは、やっぱりいい気分はしない。  でもーー。  正一が遊びに来るのも、正一から怒られるのもーーそれらを楽しみに思ってしまう気持ちだけは、どうか許してほしかった。
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