たいした恋じゃない

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「今までは嫌われたくなかったから、カナメの好きなように動いてたけどね……でも本格的に付き合うからには、君にも僕のことを理解してほしい」  その瞬間、浮島は思った。  付き合うの意味わかってんのかコイツ。だれがおまえと付き合うつった? 家に呼んだイコール付き合うとか、どんな発想だコラ。中学生でもねーわ。だいたいこんだけ長時間セックスしてほぼ体位がバックだけとか、どんだけ支配欲求強いんだよ。  ヤツのチンコより大きなサイズのコンドームの箱が手元にあればよかった。相手は他にいくらでもいるんだよ! と、これ見よがしに投げつけることができたのに(残念ながら大きいサイズは先日使い切ってしまった)。  だが、浮島は基本面倒くさいことは嫌いだ。男が帰る際に玄関で「もう来なくていいよ」とニッコリ笑って、ドアを閉めるだけにしておいた。  その後シャワーを浴びようとしたら、散々体を好き勝手に扱われたせいで、腰が生まれたての小鹿みたいにガクガクになっていた。これまでの経験上、浮島はすぐに察知した。  ――あ、コレ立ち仕事に支障が出るレベルだわ。  まあ、でもしょうがない。それでもこういう遊びをやめられないのは自分なのだから。ムカつく野郎だったけど、自分にも責任はある。  パソコンから目を離し、眠気と腰痛と闘っていると、最近設置された自動貸出機の使い方がわからないという女子学生に「ここでも借りられますか?」と訊かれた。  いつもならそこで自動貸出機の使い方を説明する。それでも微妙な反応をされれば、人の手で貸出作業をする。それも大学の図書館職員の仕事だ。  今回は説明するのも面倒で、浮島は「ここでいいです」と言って手早く貸出作業を済ませ、パソコン業務に戻った。  浮島の勤める神田大学は、黄色とオレンジの電車が走る線路沿いにある。春になると、近くを流れる川面に映える桜並木が美しい。だが、いかんせん東京のど真ん中にあるため、敷地から一歩でも出ると車や電車の走行音でとにかくうるさい。
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