たいした恋じゃない

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「うーん。でもおれゲイだからな」 「ね。神様ってひどいですよ。ま、あたしは浮島さんみたいに細い人は無理ですけど」  同僚の丸美は開き直ってしまえるくらいの男好きだ。百五十三センチと小柄な身長のわりにGカップの胸、あざとくかかったボブパーマに男好きのする笑顔など……見た目もさることながら、実際に本人も『大の男好き』を公言している。  いかにも同性から嫌われそうなタイプに見えるのだが、女子校育ちで培った処世術のおかげなのか意外と職場の女性陣からの評価は高い。 「自分も女だけど、女の人の前では男になればいいんですよ。積極的に力仕事を引き受けたりとか。要は自分より向こうを女性として立てるんです」  とのこと。  そんな丸美には、男臭さを感じないという理由だけで、昨年の忘年会の時、浮島はゲイがバレたのだ。 「浮島さんって、なんか中性的だしほんとーにイケメンですよね~っ。ねねっ、ゲイでしょ?」  その訊き方にはさすがに面食らったが、むしろ清々しかった。あとから勘づかれてひそひそ話されるのはまっぴらごめんだったので、こちらもあっさりと「うん。おれ、コテコテのゲイ」と答えた。わかる人には見てわかるものなんだな、と感心したものである。  浮島は、自分の見た目をちゃんとわかっている。まず顔の輪郭や体つきなど、全体的に線が細くて白い。  目つきはいい方じゃないし、むしろ細い方だけれど、自分に好意を持つ相手はたいてい「アンニュイ」なんて歯の浮くような言葉で褒めてくれる。  唇も薄くて小ぶりだが、笑うとバランスよく両方の口角が上がってくれるし、「カナメのここはキスをすると、灯りがついたみたいにポッと赤くなるんだ」と唇を舐められながら恥ずかしいことを言われたこともあった。  髪の毛は昔から女性的に細くて茶色く、腕にも脚にも体毛はほとんど生えない。ヒゲなんて、一週間に一度剃っても剃りすぎな時さえある。  そんなこんなで、中学生まではよく女の子と間違われていた。  高校生になり、一人で電車に乗っていると、男だと認識されつつもよく尻を揉まれるようになった。しつこく体中を触られ続け、あげくパンツに手を突っ込まれてチンコを扱かれたのも高校生の時だ。  あの時のことを思い出すと、今でも怒りと一緒にムラムラが襲ってくる。
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