心理学の講義

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ふと朱莉の脳裏に、甲斐隆矢の顔が思い浮かんだ。 やばい。苦手だと意識すればするほど、脳がその人を苦手だと認識してしまう。 「どうして、よく知らないひとに苦手意識を抱くのかというと、過去のトラウマや、他の人から嫌な目にあったのを、雰囲気が似ている、話し方や、行動、怒りり方が似ているというだけで、そのまま嫌だった感情をよく知らない人にスライドさせてしまう[転移]と呼ばれることが起きるからです」  おおっと生徒たちから声があがる。そうか[転移]なら仕方がないと朱莉はほっとしたのだが、その[転移]の元になる人物を思い浮かべようとしても、朱莉には思い当たる節がない。  あれだけ顔が整って、威圧感を感じるほどの背の高さと、身体の厚みがある男性を朱莉は知らない。こちらをじっと見つめる甲斐の目には、目を逸らしたいのに、怖いもの見たさで見つめていたいような吸引力がある。  一言でいえば、【The 存・在・感】とでも言えばいいのだろか? 暑苦しいわけではないが、少し離れていても、その気配を瞬間移動のように、ドーンと突きつけるぐらいのカリスマ性を持っている。
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