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ご神体は最深の地に建つお社に安置されていた。乳白色で、歩き始めた赤子ほどの大きさの石だ。この石には、乾いたこの地に空から突如降ってきて、落ちた場所から水を湧きあがらせたと言う伝説がある。
「これは、いつ分かったのですか?」
私の問いに、アラン祭司が答えた。
一時間程前にご神体へ礼拝に来た所、無くなっていたのだと言う。ジブリオール祭司と辺りを探し回ったが見つからず、祭主様に報告したそうだ。
私はさらに訊く。
「私は雨乞いの儀式の準備でひと月ほど忙しく、最深の地へ参ることができなかったのですが、ご神体はいつ頃まであったのでしょうか?」
最深の地へは祭主様と祭司、又はそれらの誰かに許可を貰った者しか足を踏み入れられない決まりだ。私以外で許可を出したものが居ないのなら、ご神体の最後の姿を見たのはこの中に居るという事になる。
ジブリオール祭司がバツの悪そうな顔でアラン祭司を見る。アラン祭司も何とも言えない表情をしていた。
「私達もなのです」
彼女は言い訳する子供のように弱弱しい声で答えた。
「私達もひと月近く、ここへは来ていないのです」
皆が黙りしんとする中、バッタが大きな羽音を立てて飛んでいく。つまりは、このひと月の間のいつから無いのか分からないという事だった。
「どうしようカーデル祭司!」
アラン祭司が私に向かって叫んだ。アラン祭司は信者からの人望が厚く、次期祭主の有力候補だった。ただ、少し頼りない所があり、祭主様は跡目に決めかねていた。
「どう…と言われましても。取り合えず、社使い達に事情を話して、皆で神殿を探すしか無いのでは」
「待ってくれ」
アラン祭司が慌てたように言う。
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