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「ご神体が行方不明になるなど前代未聞だ。皆に知られたら我々の責任が問われるかも知れないじゃないか」
その言葉にジブリオール祭司が怒ったような口調で返した。
「責任を問われるのは当然じゃないですか。我々高位の者は、権力を持つ一方で民衆や信仰を守る義務があるのです。足を悪くされている祭主様はともかく、信者たちの心の拠り所であるご神体を守れなかったのは、祭司の恥ずべき失態ですわ」
大きな声に驚いたのか、草むらでガサゴソ小動物が逃げまどっている。興奮気味のジブリオール祭司は、深呼吸をして自分を落ち着かせようとする。
「私は、ご神体は盗まれたのだと思っています」
彼女は唐突にそう言った。
ジブリオール祭司は幼い頃から頭が良く、神に遣わされた神童だと言われて育った。彼女の知識は、農業や医療などあらゆる分野で有り難がられている。
彼女は祭司になる前に、この宗教の運営の参考になればと、他の宗教について調べた事があった。そこで彼女は、とある宗教が行った余りにも非人道的な行為を知り、ショックで倒れてしまった。それ以来。彼女は人を、特に外部の人間を疑うようになった。それは、彼女の「か弱きものを守りたい」という気持ちの表れなのだが、少し、悲しかった。
「自然とご神体が転がってどこかへ隠れてしまうとは考えにくいですし、この最深の地にはあの大きさの石を移動させられる程の大型動物は入ってこれません。人間が動かしたとしか考えられません」
ジブリオール祭司の推測を聞いたアラン祭司が、いぶかしげな顔で訊く。
「盗む、と言っても…信者以外にご神体に何か価値があるのか?」
私も続く。
「それにこの神殿は、下に下りれば下りるほど迷路のようになっています。数年神殿で暮らす社使いですら迷子になるほどです。最深の地への階段は隠されてますし、泥棒が誰にも見つからずに無事にここへ辿り着けるのでしょうか?」
我々の疑問に、ジブリオール祭司は答えた。
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