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「地下深くなれば人は殆ど居ないわ。迷いはするでしょうけど、隠れる場所ならいくらでもあるわ。それに価値の話ですが、もしご神体ではなく盗むこと自体が目的だとしたらどうでしょう。忌々しき異教徒なら、そのような嫌がらせをしてきてもおかしくありませんわ」
「おやめなさい!」
祭主様の強い声に、皆金縛りにあったかのように動きを止めた。足に花粉をたっぷり付けたミツバチだけがブーンと飛び回り、見せつけるかのように我々の目の前を横切った。
「不用意な発言は、混乱や争いを生む。祭司なら尚更じゃ」
祭主様は、一転してさとすような穏やかな声になった。
「この事態を信者達に話すかどうかもそうじゃ。その後どうなるか、慎重に考えてからにしなさい」
信者の中には、外部の人間が村の中に入る事自体に否定的な者もいた。思い込みで、罪なき観光客が傷つけられる危険もある。
「ごめんなさい。口が過ぎましたわ。」
ジブリオール祭司は目を伏せ、口を手で覆った。
「そういえば…」
私は静寂に耐えられず、声を出した。
「暫くは無いと思いますが、神殿入りの儀式はどうしましょう」
我が宗教では神殿に入り社使いになる時に、ご神体の前で誓いを立てる決まりがある。扉や布越しではなく、ご神体の目の前でずっと行われてきたものだ。
ただ話題を変えようと言っただけなのだが、祭司二人の表情はがらりと変わり青ざめてしまった。
「本当にどうしましょう。お社の扉を閉めて行いましょうか」
「いや、儀式に立ち会う別の社使いが不審がるかもしれんぞ」
少しの間の後に、真顔になったアラン祭司が言った。
「…作る?」
「えっ」
「えっ」
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