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「人間…じゃないのかもしれませんわ」
草まみれになったアラン祭司が驚いた顔で振り向く。
「人間しかあり得ないって言ったのはあんたじゃないか。今度は兎か鼠が運んだとでも言うのか」
「そうじゃありません。私はただ、人間業では無いと思ったのです」
ジブリオール祭司は不安そうな弱弱しい声で続ける。
「ここまで侵入する事すら難しいのに、どうやってあの大きさのご神体を運んだのでしょう。一人では到底無理。大人数だと目立ちます。運んでいる間は素早い動きが出来なくなるので、見つかるリスクが高まりますわ。たとえ窃盗のプロが来たのだとしても、社使い達は殆ど顔見知りだもの、知らない人が神殿内に現れたら我々に報告するはずです」
それに人通りの多い一層目だ。大きな荷物を地下へ運ぶ際は、必ず『お運びさん』と呼ばれる決まった人が運んでいる。お運びさん以外が大きな荷物を運んでいたら、それだけで不審だ。
ジブリオール祭司は、意を決したように言った。
「神が、お怒りになったのではないでしょうか」
呆けた顔で聞いていたアラン祭司の顔色が、みるみる悪くなる。「まさか」と口では否定しているが、心当たりがあるらしく動揺している。
「考えてみれば、今年の干ばつです。乾燥地帯でありながらも民衆が飢えずにいられたのは、神が恵みの雨を降らせていたからです。しかし我々は、ご神体を放置すほど信仰を忘れていたのです。だから我々との間を繋ぐご神体を取り上げたのよ。見捨てられても仕方がないですわ」
ジブリオール祭司はそう言って泣き崩れた。
「もう駄目だ。我々の手に負える事ではない!」
アラン祭司も叫びながら頭を掻きむしりだした。取り乱す二人を見て、私もどうして良いのか分からなくなり、暫くその光景をぼーっと見ていた。
「ジブリオール祭司、アラン祭司」
ようやく思考能力を取り戻した私は、二人に呼び掛けた。二人は死人のような目で私を見た。
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