3人が本棚に入れています
本棚に追加
さよなら
朝目が覚めると、妙に静かだった。いつもなら、家事をするお母さんや外で遊ぶ小学生の声がするはず...。
階段をおりてリビングのドアの前まで来たとき、お母さんの話し声が部屋の中から聞こえた。
そっとドアを開けると、お母さんが電話を手に取り、真剣な面持ちで誰かと話している。
僕は、邪魔にならないようにソファーに座り電話が終わるのを待った。
しばらくして、お母さんが電話を戻した。僕と目が合うと、ボソッと『起きてたのね』とだけ言った。
「何かあった?」僕は何気なく聞いた。
お母さんは最初、戸惑ったような表情で『えっと』という言葉を繰り返していた。
「はっきり言ってくれない?」しびれを切らし、僕は急かすように言った。
すると何かを決心したようにお母さんが、
「よく聞いてね...」と言った。
喉が乾き、緊張してくる。まるで、次の言葉で未来が変わるとでもいうように。
「真美ちゃん、昨日亡くなったんだって」お母さんが、静かに言った。
「え.....」言葉に詰まった。うまく息ができない。まるで、僕の周りだけ、空気が抜かれているようだ。
昨日2月3日、夜の11時頃だったらしい。
そして、お母さんから真美の病名を聞いた。
がんだった。
それも、もう手遅れだったそうだ。
『よくなった?』
『うん、よくなったよ』
あれは、すべて嘘だったんだ。
何で教えてくれなかったのか?なぜ黙っていたのか?
それに何より、真美の気持ちに気づけなかった自分が悔しかった。
ふと、真美の言葉を思い出す。
『一緒にお医者さんになろうね!』
あの約束も、僕の気持ちも、これからの思い出も、すべてから光が消える。
僕は真美のことを知っているようで、何も知らなかったんだ。
そしてついに僕自身からも、光が消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!