さよなら

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さよなら

朝目が覚めると、妙に静かだった。いつもなら、家事をするお母さんや外で遊ぶ小学生の声がするはず...。 階段をおりてリビングのドアの前まで来たとき、お母さんの話し声が部屋の中から聞こえた。 そっとドアを開けると、お母さんが電話を手に取り、真剣な面持ちで誰かと話している。 僕は、邪魔にならないようにソファーに座り電話が終わるのを待った。 しばらくして、お母さんが電話を戻した。僕と目が合うと、ボソッと『起きてたのね』とだけ言った。 「何かあった?」僕は何気なく聞いた。 お母さんは最初、戸惑ったような表情で『えっと』という言葉を繰り返していた。 「はっきり言ってくれない?」しびれを切らし、僕は急かすように言った。 すると何かを決心したようにお母さんが、 「よく聞いてね...」と言った。 喉が乾き、緊張してくる。まるで、次の言葉で未来が変わるとでもいうように。 「真美ちゃん、昨日亡くなったんだって」お母さんが、静かに言った。 「え.....」言葉に詰まった。うまく息ができない。まるで、僕の周りだけ、空気が抜かれているようだ。 昨日2月3日、夜の11時頃だったらしい。 そして、お母さんから真美の病名を聞いた。 がんだった。 それも、もう手遅れだったそうだ。 『よくなった?』 『うん、よくなったよ』 あれは、すべて嘘だったんだ。 何で教えてくれなかったのか?なぜ黙っていたのか? それに何より、真美の気持ちに気づけなかった自分が悔しかった。 ふと、真美の言葉を思い出す。 『一緒にお医者さんになろうね!』 あの約束も、僕の気持ちも、これからの思い出も、すべてから光が消える。 僕は真美のことを知っているようで、何も知らなかったんだ。 そしてついに僕自身からも、光が消えていった。
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