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 大番頭の秀作は、明らかに困惑の表情を浮かべ、周囲を窺った。幸いに、丁稚も手代も、自分の仕事に忙しく、こちらに関心は払っていない。  連と言うのは、酔狂が集まって作った集まりのことだ。  大番頭は、困ったなと言う顔で呟いた。 「いやはや、なんとも地獄耳と申しますか……、どこで聞きつけました」  新吾の目がきらっと光った。珍しく「がせ話」ではなかったようである。  ここしばらく感じていなかった、やる気というものが、新吾の中で目を覚ました。記者と言っても一番下っ端、ほぼ御用聞きに使われる身であったが、今回は自分で探り当てた話であった。これをものにすれば、主筆や社主の自分を見る目が変わるかもしれない。新吾は、番頭の方にぐっと身を寄せた。 「おお、やっぱり真実だったのかい。来た甲斐があったぜ、いやあ番頭さん今日はいい男に見えるぜ」  本当は半信半疑だった。だいたいが、彼の勤めている武蔵日日新聞では物の怪だの亡霊だのと言った話もたまに扱うが、肝心の記者三人が三人とも、これらの事象の実見、実体験がない。新吾も、この時まで、この世のものでない存在は、信じているわけでは無かった。  いや何故だろう、信じてはいけない近付いてはいけないという衝動が無意識に働いてしまう。ところが、今回だけは何故か怪談話の連に強く惹かれるものを感じ独自で動いていた。  本人は気付いていないが、新聞社の人間は後で大いに驚いたことからも、彼がどれだけ怪異から身を遠ざけていたかが窺える。 「まあ伝手と言うか、縁と言うのは奇なものだね。番頭さんが、この話につながってるとはなあ。俺もまんざら運が廃れたわけじゃないのか。しかしなあ、怪異が起きるってのは、ただごとじゃねえよ、なんだってそんな会が作られたんだい」  新吾に聞かれ、大番頭は困ったという表情をはっきり浮かべた。
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