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「いや、それは、こういった場所でお話しできる類じゃありませんから。それに、これはあくまで内々の集まりで、よそ様には迷惑をおかけないというのが建前でございますし」
視線が下から上がらないのは、本気で困っている証拠だ。
「ふうん、まあじゃあ仔細は後でいいや。それで、本当に起きるのかい、怪しいことってのは」
新吾が訊くと大番頭は小さな声で答えた。
「まあ、見えない何かが物を動かすとか、時に居ないはずの人の声が響いたりなどは、あたしも体験しておりますがねえ」
「立派な怪異じゃねえか。昔っから、そういうの起きちゃまずいってんで、百物語のしきたりが出来上がって行ったんだろう」
「左様ですな。話を切り止めるのはそれを避けるため、この連はそれをしません。正直、祟りなんぞもいつか起こるのではとは感じています」
新吾は思わず口笛を吹きそうになったが、それは押し止め、大番頭に言った。
「それなのに、未だにその怪異を起こす百物語は続いているわけか。こりゃあ、興味をそそられて仕方ない。どうでえ、協力してくれねえかな。俺も、その怪異を目の当たりにしてえ。無論礼はする」
大番頭は考え込んだ。
「連の世話人は、あまり人が増えるのを望んでないのでございますよ。ですが、まあ、新吾の旦那の頼みでございますからねえ、断ることはできない。やれ困った……、これ新聞に載せる時は全部名は伏せてもらえるんでしょうね?」
下からねめるように言う大番頭はあちこちに困惑と逡巡の色を漂わせている。そもそも、なんで大番頭は新吾のような若輩にこうもへつらっているのか、端から見たら謎だらけだ。
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