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新吾は、構わずに畳み込んだ。
「請け負う請け負う、場所も人も、こうぼかしてしまうし、おめえさんの事はひとたりも書かねえよ」
大番頭の表情がいろいろ変わる。最終的にそれは諦めたと言った色に染まった。
「大恩人にそこまで言われたら、男として受けないという言葉は出せませんが、一存では答えられない面もあるのは承知してくださいよ」
どうも、この二人、何か一方ならぬ関係がある様子であった。
「うん、まあ連である以上、よそ者は嫌うってのは判る。だがまあ、こっちの素性は明かさねえでいるし、他の者に詮索も入れねえと約束するよ」
この言葉に納得したのか、大番頭は声を潜め新吾に囁いた。
「それじゃ、これでどうでございましょう。他の方に一切の迷惑をかけないと一筆頂ければ、取りあえず席手に話を通します。案内が許されても、百物語の進行にはまったく口を出さない、それが条件でございます」
新吾の顔が輝いた。
「そうかい! それで、いつ話を持って行ってくれる! そも次の百物語はいつなんだい?」
気が短いのが江戸っ子気質、東京などと名前が変わったって、この町に三代以上住んだら、自然と短気になってしまうらしい。士分だった者も、これは一緒だ。直参だろうと江戸生まれは基本短気なのだ。
大番頭は、すらりと言った。
「実は、明日の晩なのでございますよ」
あまりの急なことに、新吾は一瞬うっと言葉に詰まったが、すぐに首を振って、でっぷりとした大番頭に言った。
「よっしゃ、これで決まりだ。明日は岡場所に繰り出す予定だったが、吉原詣では、また今度にするわい、さっさと席主に話を持て行って俺をそこに連れてってくれい」
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