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正真正銘の供養仏壇が置かれた座敷の上座で、案内役の男は述べた。居並ぶ顔は、どれも素直これに頷き、まさにしわぶきの声一つ起こらない。
これは、借りてきた猫のようにしているしかない。新吾はそう腹をくくった。そもそも何もしませんと一筆入れているわけだし。
世間の夕餉の終わるころ合いの時間に話は始まった。江戸から東京に呼び名は変わっても、生活が丸っと変わった訳ではない、市井の者は日没前に晩の食事と風呂を終え、夜風で涼むのを待ち寝床に入る。
その夜風が待てぬ寝苦しい夜の過ごし方として、百物語は持て囃された。しかし、天子様がやって来てからこのかた、どうしたものか町中での百物語の催しは減った。表立って何か取り締まりがあった訳でもない。流行り廃りのそれで言う、引き潮が庶民の心をここから遠ざけただけか。
それでも、長年の習慣であるから江戸っ子たちは百物語そのものになんの違和も抵抗も覚えぬ。
新吾お気付けば、次々語られる話に聞き入っていた。
新吾は怪談物を読むのが嫌いではなかったが、耳に入ってくる話は、どれも初めて聞く話。そして、そのどれもが怖気を振るうような内容だった。
時間がおすにつれ、恐怖はどんどん場を支配していった。
そんな最中だった。「ひょえっ」、というやたら頓狂な悲鳴が部屋に響いた。
次の瞬間、どっと言う笑い声が上がる。その驚き様が、あまりに奇天烈風だったので、話の怖さより、可笑しさが勝ってしまったようだ。一同の緊張の糸が、この哄笑で薄らいだ感である。
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