6人が本棚に入れています
本棚に追加
「……やっぱりあの柵を登って出るのは無理そう」
大地と一緒にどうにか登って出ることは出来ないかと試行錯誤していた翼が、疲れた様子で息を吐きながら此方に歩いてきた。その後ろに大地が柵から降りて俺の方へ来るのも見えた。
「途中まで登れてもその先が行けないんだよなー」
額に浮かぶ汗を手の甲で拭いつつそう言ったのは大地である。俺も何度か挑戦したのだが、この出口の門扉は半分ほど登った所で足を掛ける場所が無くなる上に、先の方が尖っているため間違って手をかけると怪我する恐れがあるのだ。
「誰か係の人を探すしかないかも」
檻越しに見える外の景色を遠い目で見つめたまま翼が言った。その言葉を聞いて大地は活気のない遊園地を見渡してぽつりと呟いた。
「探そうにも、誰かいるようには思えないな……」
しんと静まり返った園内は人がいるような気配はない。けれど出口周辺で出来ることはもう大方手はつくしたため、残された手段としては翼の言うように従業員を見つけ出すことくらいなのだ。
「ここにいても仕方がない。探しに行こう」
俺がそう言うと、大地も翼も顎を引いて見せた。肯定と取って良いだろう。そう判断した俺は一番近くに見えた、メリーゴーランドやコーヒーカップなどのアトラクションがある場所へと向かった。俺が歩き出すと数歩後ろから二人分の足音が聞こえた。
昼間見た時はファンシーで可愛らしい世界観の場所だと思ったが、日が暮れ、心地よい賑やかさもない今では少し不気味に感じられる。動く気配のない馬達と回らない鳥達の間には一切の人影もなかった。
「ここにはいなさそうだね……」
キョロキョロと忙しなく首を動かしていた翼が諦めたように肩を落として言った。やはり彼の目から見ても人を見つけることは出来なかったようだ。
「……はぁ、どうせならもう一度遊びたいなー」
能天気にそんなことを言い出したのは大地だ。そういえば彼はコーヒーカップに乗った後、帰りにもう一度乗ろうと提案していた。しかし、乗ることがないまま今の状況に陥ったためこんなことを言い出したのだろう。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」
呆れたように言ったのは翼だ。彼はいつも大地の突飛な言動を静止している。明るく積極的な大地と冷静で落ち着いた翼は良いコンビだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!