悪意の失念

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冬の風が私の頬を撫で、凍てついたものが心を通り過ぎた。 この季節に私はまた一人、人を殺した。 懐かしく、そして忘れていた匂いに私は顔を上げることとなった。 それは線香の匂いだ。 立ち上る香木の焼けた匂いに自然と鼻がひくついた。 まるで猫のようだと私は自嘲した。そういえばあの時に飼っていた猫は一体どこへ行ったのだろう。いつの間にか姿を消していた黒い子猫。名前もつけていなかったあの猫。いや、名前をつけるのを憚っていたのかもしれない。名をつけることということは自分の中で価値を認めるということだ。私はそういったものがとかく苦手であった。 私は路地裏を素早く抜けることにした。
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