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「言うわけないでしょう。万年人手不足の我が社が、使い走りのできる人間を手放すはずありません。私は記事を書かないでと言ったのであって、社をやめろとは言ってはいない。居ないと困るが、変な記事書いて尻ぬぐいがこっちに回るというのは、それはそれ手間ですからね。それなら雑用で駄賃でも貰ってついでに社の雑用もすればよいではないかなと思ったのです」
「……その言葉って私のことをけなしておりませんか? 私は一応記者でしたよね? 記事書くなって聞こえたのですが、気のせいでしょうか?」
新吾が小首を傾げながら主筆に訊いた。
「私は事実を並べて言っただけです。お前さんの記事に筆入れ直す時間が減ると、仕事がはかどるなと思ったから、主にあれこれ雑用をしたら良いと言ったのです。まあ駄賃は副業として貰ったらいいんじゃないかという、お節介な提言だが。けなしたのでなく、今の状態を有意義に変えるための提案で、記事を書くなとは言ってない。書いた記事に手がかかるとは言ったが」
新吾はがっくり肩を落とした。完全にけなされているではないか。主筆にその意思がなくても、歯に衣着せない人だから、本心がそのまま新吾への悪口になってしまっているのだ。問題なのは、主筆にはそれが悪口だと認識できない事である。
「やはり足を引っ張っておりますか、私の拙い文章は」
「成長はしているぞ、直す部分は以前の半分以下になっているからね。まあ、焦らないことです。いずれは一本丸ごと任せられる記者になれるでしょう。筋が悪いわけじゃない、奇をてらわなければ文は立ってくる、精進しなさい」
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