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主筆は、馬鹿がつくほど正直な人なので、自分に対する評価は本音をそのまま告げているのは間違いない。新吾はそれが判るから、最後の言葉に少しだけ救いを見出し自分の席に腰を下ろした。
「それで、今日の頼まれ事と言うのは厄介な話かね」
なんのかんの言っても、主筆も新吾が貰ってくる頼まれ事には興味があるらしく、決まって毎回内容を聞いて来ていた。というのも、往々してそれがかなり厄介で複雑であるから新吾に頼むことになった、という件が多いからだ。簡単に言えば、変な頼みを良くされるというわけだ。なるほど、それは聞いていて飽きない。
「たぶん簡単だと思いますよ。ただの猫探しです。一日もかからないでしょう。頼み事をしてきたご隠居の話では声は聞こえていると言いますから」
主筆は、ふむと言って頷いた。
「新吾に頼むにしてはかなり簡単な部類の話だな。普通の町の世話役では手に余ってお前さんに泣きつくというのがいつもの体だからな」
「そうですね、でも私を名指しで話がきましたから受けました。まあ、薬問屋のご隠居には親の代から世話になってますし、恩返しみたいなもんです。さっさと片付けて、事件が無いかまた御用聞きしてきますよ」
だが、これは大きな間違いだった。新吾も周囲の人間も、この時点ではまだこれがとんでもない厄介ごとの始まりだとは思っても居なかった。
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