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「師匠?」
小首を傾げた新吾の視界に、巡査の陰に立つ小さな男が映り込んだ。
とてもよく知っている相手の顔が、そこにあった。
「暁斎師匠、貴方ですか、この巡査さん呼んできたの」
巡査の背後に立つ小柄な男は、乱喰い歯を見せたまま首を横に振った。
「呼んじゃいねえよ、ずっとここでおめえ見てて、たまたま通りかかったこいつに、ありゃあ死相が出てるって呟いただけだ」
「ちょっと、勝手に人の片足を棺桶に突っ込まないでください! 私はただ、頼まれ事が行き詰まって困ってただけですから!」
巡査がむっとした表情で二人を見比べた。今にも刀を抜いてきそうな表情である、どうにも恐ろしい気配を持つ巡査である。
「貴様ら結託して私をからかったのか?」
「滅相もありません! 誤解です」
新吾がぶるぶると首を横に振って否定した。
「俺の思い違いだっただけだ、気にしなさんな藤田巡査さんよ、まあこの世に変なものが山のようにあるのはあんたも知ってるだろ、そんな話の一つだが見立てが違ってただけだ」
そう言って、帯刀の警察官の肩をぽんぽんと叩く絵師河鍋暁斎。泣く子も黙る警視庁の巡査も、この男にかかると子ども扱いのようだ。
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